【「ランティス組曲」『ランティスの缶詰』について語る】ドワンゴ齋藤×ランティス斎藤インタビュー

2008年初頭、ネット上を大いに賑わした二つの企画CDがニコニコ動画から生まれ、発信された。第一弾は「ランティス組曲」。そして第二弾としてリリースされたのが、アルバム『ランティスの缶詰』だ。「組曲」は2ちゃんねる、そしてニコニコ動画などで激しいバッシングに合いながらもオリコン・ウィークリー・チャート17位を記録。一方、しっかりとプロの環境で作りこんだ『缶詰』はウィークリー・チャート40位という結果に終わった。今回のドワンゴ齋藤光二×ランティス斎藤滋インタビューは、『ランティスの缶詰』の発売翌日に収録されたものである。二人の仕掛け人へのインタビューにより、大きな話題を集めた今回の企画の全貌、とまでは言わないが、謎に包まれていた部分の多くが語られている。いま改めて、【「組曲」『缶詰』とはなんだったのか?】を考えるためのロング・インタビューだ。(文:冨田明宏)


 「隙の無い完璧なものを出していたら、批判は少なかったかもしれない」


ドワンゴ齋藤 まずね、「ランティス組曲(以下「組曲」)」がすっごい叩かれまくったでしょう?でも、『ランティスの缶詰(以下『缶詰』)』は少なかったですよね?

――(笑)。

ランティス斎藤 (笑)。「組曲」は本当にすごかったですよね。

ドワンゴ齋藤  でもね、「組曲」って今でも(4月中旬当時)、ニコニコ市場ではランキングに戻ってきたんですよ。

ランティス斎藤  あ、帰ってきましたか?

ドワンゴ齋藤  うん。今また3位くらいに戻ってきているんです。だから、こつこつと数字は出している感じですね。でもまあ、〈ジャパネットやまだん〉の効果もあるのかもなぁ。

ランティス斎藤  やまだんですか(笑)。

――先ほど「今回は批判が少ない」という感想を漏らしてらっしゃいましたが、発売されてからのリアクションはどう見ていますか?

ドワンゴ齋藤  “フラゲ”とよく言われるんですが、発売日前にフライングされてアップされる動画で『缶詰』の全曲がダーッって上がったんですけど、それがいきなりマイリストの総合1位になった。マイリストに入れてもらえるということは、それだけみんなが気に入って、繰り返して聴いてくれるという事なんですよね。「組曲」だと、「編曲が悪い」とか「プロの本気ってこんなものか」とか、「歌い手を潰した」とか、クソみそに書かれていたんですけど、今回の『缶詰』は、「1人1曲(という形)は良い」とか「選曲も良い」とか、そういうリアクションが目に付きましたね。あとA姉さんとかに関しては「本気を見せた」とか「エンジニアすげえ」とか(笑)。「組曲」とは、ガラッと空気が変わったように見えました。「組曲」だと、出てから2週間くらいの間は叩かれてましたよね?

ランティス斎藤   そう。でも、3週間目くらいからは応援ムードが漂ってきて。

ドワンゴ齋藤  “スルメ組曲”とか言われてました。噛めば噛むほど……みたいな。「批判しているうちに好きになってしまった」とか(笑)。確かに『缶詰』は、ひとりひとり時間をかけてやったので、コンセプトが全然違うんですよね。「組曲」はもう、11人が奇跡的に同時にスタジオに集まって、「せーの!」で録った感じだし。その場でパート分けをしたりするような、巨大なオフ会状態だったんですけどね。あれ、10何時間でしたっけ?

ランティス斎藤  18時間です。

――18時間レコーディング! ぶっ続けでですか?

ランティス斎藤  そうそう、ぶっ続けでやりましたね。

ドワンゴ齋藤  そうですよ。人によっては出たり入ったり、終電で帰った人もいましたが(笑)。でも、今回は早い人でも2~3時間くらいでちゃんと録れてるんですよ。

――それは非常に優秀ですね。

ランティス斎藤  はい。そこは触れてほしいんですけど、数テイクでOKが録れてしまうんです。ある意味、仕事でやっているキャラクターソングを録るのよりも楽だったかもしれません。

――(笑)。

ドワンゴ齋藤  直しとかリテイクとか、すごい多いように思われているのかもしれないですけど、そういうのも比較的少ないと思いますよ。ニコニコ動画でも、オートチューンとかを使う人はいると思うんですけど、そういうのを極力無くして、生っぽくやろうと。

ランティス斎藤  もちろん、ちょっとは使ってますけどね。ただ、バリバリ使っているかというと、ほとんど元のままで良いのが録れてるから、そんなにいじってないです。

ドワンゴ齋藤  あと、「組曲」と違って、今回のアルバムに関しては、みんなの歌いたい曲とかも出してもらったし、ランティスの斎藤さんの方で、彼らに合うものを選んでもらったんです。声質とかスタイルに合うものとか、「これをあえてやってみると面白いんじゃないか」というものも、逆提案して。その中で曲を絞っていったと。当然、権利的に制約があって落ち着いたものもあるんですけど、そういう意味でも選曲はバッチリだったんじゃないかな? と。彼ら的にも満足してると思いますよ。

ランティス斎藤  最初に「歌いたい曲を教えてくれ」と言って出してもらったんですけど、みんなマニアックなものばかり出してきたんです。それだと、ウリが少ないアルバムになっちゃうから(笑)、「ごめん、これはこっちの方がいいんじゃないかな?」と相談をして、聴き応えのあるものにちょっとずついじっていって。皆さんと相談して、これでいきましょうと。それで練習してもらって、という感じでした。

――ということは、前回はライブ感みたいなものとか、そういう部分を意識的にやった、ということですか?

ランティス斎藤  前回はね、完全にこっちで曲を固めて、それでみんなに歌ってもらったんですよ。

ドワンゴ齋藤  1日しかないよ。終電になったら帰ってね、って(笑)。

――そして実際に蓋を開けてみたら、バッと作ってしまったという部分に対する批判であるとか、この歌い手がこれを歌うべきじゃないだろうという批判であるとか、そういうものが出てしまったと。それは意図的な狙いがあってのことだったのですか? それとも、そこまで考えていなかったということですか?

ドワンゴ齋藤  意図的とか考えていなかったというよりも、普通、ニコニコ動画に上がるものって、自宅環境で勢い余って収録しました!ってものが多いじゃないですか。「その斜め上の選曲なによ?」みたいなものもあるし。そんな感じをランティス楽曲だけで「組曲」としてアレンジして、ランティスが妙な本気を出してストリングスを入れちゃった、というのも、僕らなりの提示なんですね。音程が外れているものが入っていたとしても、それも場の空気だったり楽しさだったりするんですよ。CDってどっちかというとヘビーローテーションで聴くから、完璧なものの方がいいっていう考えがあると思うんです。プロの仕事の方がいいっていう考えがね。でもそれをやってしまうと、ニコニコ動画の混沌とした部分とか、渾然一体としたものが出ない。なので、あえてこの生々しい感じのものを出したんです。だから、ちょっとグダグダなところとか、ネタが入っていたりとか、そういう部分を敢えてやってみた。ニコニコではその後、いろいろと再編集されたのが上がったじゃないですか。「前の方に美味しいところを持ってきた」とか。間奏が長いとかは、ある程度は言われる事も予想していたんですけどね(笑)。逆に、そういう編集したりする隙の無い完璧なものを出していたら、批判は少なかったかもしれないけど、ランキングからはすぐに落ちてしまって、愛されはしなかったと思うんです。だから、いろいろ遊んでもらえたのは、良かったですね。パロディの文化がニコニコの良さだと思っていますから。批判については精神的にちょっと凹むものもあるんですけどね。ランティス斎藤さんは慣れてるかもしれないけど(笑)。

ランティス斎藤  僕は慣れてますよ(笑)。でも、そちらはそうとう凹んでましたね。

ドワンゴ齋藤  ちょこっとだけね(笑)。まあ、「そこまで言わなくても~」っていうのは、ありましたけどね。

――ニコニコはリアルタイムでコメントを付けられるのが良いところでもあり、残酷な部分でもありますね。

ドワンゴ齋藤  残酷ですねぇ。

――なるほど。僕も「組曲」に関しては、批判的というより批評という形で「今回は甘かったんじゃないの?」という要旨の原稿を、雑誌などに書かせていただきました。

ランティス斎藤  ですよね(笑)。

――はい(笑)。で、『缶詰』を聴いた僕の感想を言わせていただくと、前回の「組曲」は“釣り”だったのかなと。先ほども収録に2~3時間と仰いましたけど、歌い手さん、上手いじゃないですか。

ランティス斎藤  上手いですね。

――上手いし、アレンジもしっかりしている。正直、「釣られたのか? やられたのか?」という気持ちなんですよ。

ドワンゴ齋藤  “釣り”はニコニコの華ですからねー(笑)。

ランティス斎藤  狙ったところはね、あったといえばあったんですよ。

ドワンゴ齋藤  「組曲」は、第1発目だからド派手にやりたかったんですね。とは言いつつ、PRはまったくニコニコの外ではやっていなくて。ニコニコの「時報」ってありますよね? あれでやったくらい。 しかも『缶詰』では、PR動画を上げたくらいかな。そういった意味では「組曲」と『缶詰』はセットで、と最初から考えていたんです。

――なるほど。

ランティス斎藤  企画の段階から、そういう流れは考えていました。「組曲」を作り終えた後すぐアルバムの製作に入って、「組曲」が発売された頃には、既にレコーディングの最中でしたから。

――『缶詰』は、かなり厳しくディレクションをされたんじゃないかな? と思ったのですが。

ランティス斎藤  ディレクションはしましたね。それまでは家で、一人で歌っていた皆さんが、第三者である僕が「こうして、ああして」と指示を出すと、「ああ、こういう風に歌えば良かったんだ」と気付かれることも多くて。皆さんが驚いていたのは、「歌を録る時って、こんなにいろいろ考えてやるものなんですね」って。「歌詞の意味を考えて、ここは優しく歌って、ここは激しく歌って」という、緩急をつける歌い方も初めて知ったような方が多くて。細かく歌い方の指導はしましたが、ちょっとしたエッセンスを教えてあげるだけで、ここまで歌えている事を考えると、才能はもともとあったんでしょうね。

ドワンゴ齋藤  上手い人たちはカンが鋭いんですよ。たとえばサリヤさんとか、「今のニュアンスはいいんだけど、もうちょっと心を込める感じで」とか指示がいくと、次のテイクでスッと上手くなったり。そういうことは実際ありましたね。「組曲」は、そういう意味でのディレクションは皆無ですね。とにかく、ドーッとやった感じなので。



 「僕的には、ランティスさんに迷惑をかけたかったのかも(笑)」


――人選の部分ですが、「組曲」で入っていた人が今回は参加していない。もしくは「組曲」にいなかった人が『缶詰』では参加している、というようなことがありましたよね?

ドワンゴ齋藤  ええっと、人選はほとんど僕が釣り上げました。「組曲」に関しては、ランティスの斎藤さんと一緒に、二人ともたくさんいろいろな動画を見て「これは良いな」とかアタリをつけたり、相談しながらやったんですけど、ゴムさんとかJさんは、もうニコニコ動画がβ版の頃からの、牽引してきたスターなんですよ。“歌ってみた”というカテゴリーが無かった時代に、「おっくせんまん」とかやっていたりしたので、当然彼らのようなビッグネームは抑えていく、というのは考えていたんです。例えばnayutaさんだったら、『ハルヒ』つながりで、面白いことができるんじゃないかとか。

ランティス斎藤  (笑)。

ドワンゴ齋藤  yonji君は“白石稔要員”とか言われてますけど(笑)、歌は安定しているんですよ。A姉さんは、再生数は少ないんですけど、『缶詰』の「Faze to love」とかを聴いていただくと分かるんですが、彼女の力強さが必要でした。「なんでこいつがいるんだ?」っていうコメントもあったんですけど、女性で萌えが3人いたら、力強さがなくなってしまう。サリヤ人は澄んだ声で、nayutaは比較的癒しで萌えな要素があって、A姉はセクシーかつ力強さがあるという、JAM Projectで言うところの、奥井さんや松本さんみたいなパートもできる、そういうバランスを考えながら決めました。あと、「なんであの人いないの?」とか言われますけど、皆さんが入っていてほしいと思われるような方には、実はアプローチはかけていたんですよ、全体のバランスを見ながら。あともう一つは、やっぱりニコニコ動画なので、歌い手さんたちが集まって楽しめるか、というのは基準でしたね。上手いだけじゃなくて、面白い奴ら、楽しそうな奴らっていうのも大事な要素でした。で、ゴムさんは『缶詰』の方には参加していないんですけど、ゴムさんのブログを見ればわかりますが、個人でCDを作られていたり、忙しいという事もあって『缶詰』は辞退されたんです。

ランティス斎藤  ゼブラ君は、『缶詰』のレコーディングに見学で遊びに来てましたよ。

ドワンゴ齋藤  あと『缶詰』には雌豚さんが入っているんですけど、雌豚さんは当然、ニコニコ動画とか2ちゃんねるとかで、某歌い手さんの真似をされているじゃないですか(笑)? 彼女、変な事ばっかりやってるのがたまらないですね!

――完コピですよね(笑)。すごいなあと思いますよ、本当に。

ドワンゴ齋藤  僕的には、ランティスさんに迷惑をかけたかったのかも(笑)。雌豚さんにアレをやってもらったら、ランティスさん困るかな? みたいな。そういうちょっとしたS気分もあって。

――いざこざとか起こらないかな? と(笑)。

ランティス斎藤  最後の方、「ああ、○○になっちゃった」とか言ってましたよ。

ドワンゴ齋藤  僕は仕掛け人の側なので、どっちかというと、そういうお茶目心がありまして(笑)。雌豚さんを入れることで、多分ニコニコ的には驚かれると思ったんですね。雌豚さんは、独特の世界観で独自にやってる人だから。「組曲」では、よく「商業主義だ」とか、そんな事を言われましたが、商業主義云々の話でいうなら、僕らは最初からビジネス的なものは捨ててやっているし、正直大ヒットとかってそんなに甘いものではないですからねぇ。

ランティス斎藤  雌豚さんには、メールを打つ時に困りましたね。「雌豚さまへ」とか。オレは何を打ってるんだろうなって(苦笑)。

――そうですよね。女性に対して(笑)。

ドワンゴ齋藤  いちおう、閣下を付けていますよね。僕なんかは『アニメロサマーライブ』を通じて奥井雅美さんとも親交があるのですが、奥井さんの曲を歌う歌手のクレジットに、〈J&雌豚〉っていうのは、これは何だかな?(笑)。失礼じゃないか? みたいな。だからクレジットが“Jポーク♀”となっているのかも(笑)。「三十路岬」に関してだって、歌っている人に対してこれはいいんだろうかと。。。

――(笑)。皆さん、お若いんですか?

ランティス斎藤  若いですね。

ドワンゴ齋藤  下は高校生から上は25歳くらい、ですかね。皆さん本当に若いです。それは「組曲」の時に感じたんですけど、意外とニコニコ動画のメイン層は、17~18歳くらいかもしれないと思ったんです。

ランティス斎藤  そうですね。「組曲」の時、ランティスの歴史を振り返る組曲でもあったんですけど、初期の頃の曲を知らない人が多かったんですね。

――多かったですね。あれは僕もビックリしました。

ランティス斎藤  ですよね。で、ニコニコのユーザーって、書き込む人たちは10代から20代前半なんだなっていうのがリサーチできて。

ドワンゴ齋藤  あとね、モバイルから見ている人もけっこう多いんですよ。あんなに不便な環境なのに。ニコニコの、若いパワーっていうのは感じますね。



 「うちのクレーム係にメールで「謝罪しろ!」って」


――ニコニコの若いパワーは、確かにすごく感じます。でも彼らって、世代的にも排他的になりやすいじゃないですか。その昔、ネット上で某○○○○○○さんが“○○○○問題”でいろいろありましたよね?そういう事例もあったわけですが、怖さみたいなものは感じませんでしたか?

ドワンゴ齋藤  怖いですねぇ。でも、ランティスさんは今までに大きな実績があって、アニソン業界を引っ張っている。かつ、ユーザーの気持ちを本当に分かってらっしゃる。ドワンゴが今回の企画をやれたのは、ランティスさんのそういう土壌があったからというのは、間違いないです。「組曲」に対して批判はありましたが、ランティスそのものをダメな会社だとか言う事は無いですよね?何だかんだ言っても、ランティスさんの曲はニコニコでものすごく愛されているわけですから。ただ、〈歌ってみた〉のみなさんと直接交渉するという部分に関しては、同人活動をしたい人もいるし、若いっていう事もあるし、理解を示してくださらない人も結構いますね。 “初音ミク”の時のアレルギーっていうのは、まさにそこに当ってしまった悪い例だと思います。今でも着うたの配信とか、コンタクトの仕方については色々手探りで行っている感じですね。

――ランティス斎藤さんは、そのあたりの怖さについてはいかがでしたか?

ランティス斎藤  歌い手の皆さんが歌うことでスター扱いされるのは、目に見えていたんですね。最初仲良くやれていても、その後の関係性が最初のままでいられるかどうか? と。僕が一番怖かったのはそこでしたね。でも、実際に歌い手のJさんとかサリヤ人さんはすごく大人で、2ちゃんとかニコニコで叩かれた事もあったから、彼らもスタッフ的な意識を持っていたんですね。それで一緒にやってみたら、すごく仲間意識が芽生えてやりやすかった。実際に怖かったのが、彼らではなくて普通のニコニコ動画ユーザーの皆さんで、例えばElements Gardenを呼んでくるとか、選曲の内容とかについて、「これやったら叩かれるだろうな」っていうのは、実はかなり予想していたし、分かっていた事なんです。で、叩かれた時に耐えられる気持ちと心構えができる人としか一緒にやれないなと思った。上松範康さんとか菊田大介君とかに頼む時も、「多分めちゃくちゃ叩かれると思うけど、いいですか?」っていうところから始まっていて(笑)。それでも快く引き受けてくださったんです。

ドワンゴ齋藤  〈歌ってみた〉のみんなはね、意外と平気なんですよ。まあ平気っていうとちょっと変なんですけど、僕らが凹んだとしても「大丈夫ですよ。叩きとかって、放っておけばいいんですよ」くらいで。いわれのない叩きがあったとしても、それでも歌いたいし表現したいから、止めないんでしょう。だからどんどん強くなれる。今、サリヤ人さんとかは、自分でユニットを組んで顔出しでライブやっていますよ。強いですよね。

――僕も文章を書いてメシを食っている人間なので、ネット上でいろいろな意見をいただく事はあるんですけど、批判に関してはラウド・マイノリティーの声が本当にデカ過ぎるので、参考にしづらいんですよ。今回の「組曲」に関しても、僕はもっと受け入れる意見や声が多くなると思っていたんです。だから、容認派に対するアンチテーゼも必要だと思って、厳しい原稿を書かせて頂きました。だけど、実際は批判がものすごく多かった。ただ、実際にはあれだけ批判があったとは思えないくらい、売れたわけですよね。要するに、「いったい誰が批判していたんだ?」という部分がいまだに見えてこなくて。

ランティス斎藤  批判ですごく多かったのは、うちのクレーム係にメールで「謝罪しろ!」ってくるやつで。

――それは、誰に謝罪しろと?

ランティス斎藤  「こういう選曲をして申し訳なかったと、ランティスは謝るべきだ」とか、「今回のクオリティが低い事に関して、経緯報告をするべきだ」とか。で、そういうメールを出す人に限って、名前を名乗っていなかったりする。何か、時代を感じましたね。“謝れ症候群”というか、謝らせるのが好きなのかな……。それが、こういう場所にも波及しているのを感じました。

――そういった事が書きやすい、社会的なムードがあることは事実だと思います。

ドワンゴ齋藤  ニコニコ動画ってプレミアム会員じゃなくても全然遊べるんですよ。ニコニコ動画って、提供された大きなフリーの遊園地みたいなもの。そういうフリーで遊んでいる人達の中にも、「運営氏ね」って人もいますし(笑)。組曲のCDを買わなくて、ただその劣化コピーがアップされているのを聴いて「謝れ!」って、それは違うとは思うんだけどなぁ。

ランティス斎藤  もうちょっとね、マナーとモラルがあるといいなぁ、とは思ってしまいますね。

――なるほど。それはMADにも言えることで、「パロディはリスペクトだ」という言葉が都合よくなりすぎて、元ネタへの愛が見えない何でもありな動画って、見ていて急に詰まらなく感じてしまうんです。みんなで友達の部屋に集まってテレビを見ている感覚だから、公共の場という意識が希薄になって、動画を上げるほうも見るほうも、モラルが欠如してしまっている部分はあると思います。



 「打ち上げ花火という意味では、すごく面白いものができた」


ランティス斎藤  みんなでテレビを見る、という感覚はとても近いですね。

――この企画の、今後の発展性みたいな部分をお聞きしたいのですが、今後アニソンにこういったアマチュアのシンガーを引き上げていく、というような事は考えてらっしゃいますか?

ドワンゴ齋藤  これも難しいところで、「オレもランティス組のように目をつけられたい」みたいなことを言い出す人が増えるのは決してステキなことではないので、どういうスタンスで接していこうか、と言うのが難しいところですね。ただ、「組曲」と『缶詰』については、これで完結です。すごい苦労もしたし、打ち上げ花火という意味では、すごく面白いものができたなと思っています。まあ僕としては、こういった面白い企画は是非今後も仕掛けたいなぁ、とは思っているんですけどね。金儲けとか、ビジネスをしたいからという事ではなくて、ユーザーが求めるような流れになっていたら、という感じです。別に、そこにがっついても何もないんですよ。言葉にしにくいんですけど、何て言ったらいいんですかね。「えっ!? もうやめちゃうの?」って言ってもらいたいんです(笑)。「もっと面白い事をやってよ、ランティスさん!」って。「第二弾出して!」とか言われたほうが嬉しい。そう簡単に「次もやりまっせ!」なんて事は言えないですね(笑)。そういうスタンスに僕らはしておきたいんですよね。そういうことで、いいですか?

ランティス斎藤  いいですよ(笑)。

ドワンゴ齋藤  僕らの役目っていうのは打ち上げ花火で、今までCDを出した事でいろいろ叩かれたりしたんですけど、とにかく形に残したじゃないですか。ニコニコ動画が、何年後かに同じ形で残っているかっていうのは、正直誰も予測できない。それくらい新しいメディアだと思うんですけど、CDは記念として手元に残るし、オリコンに入ったっていうのは、それだけのパワーを示せたと。それだけで、この二つの作品については意味があって、これで完結できたと思います。また違うところで、何かやりたいなぁとは思っていますよ。

――ランティス斎藤さん的にはどうですか?

ランティス斎藤  僕は、これで完結ではあるんですけど、歌い手の皆さんは本当に魅力的な方たちばかりで、今後仕事をしたいなという部分もあります。だけど、彼らは彼らで生活もあって、趣味の一貫で歌をやっているから良かった、というのはあると思うんですよね。だから、これ以上僕の方から「一緒に頑張ろうよ」という声かけはしないつもりでいます。もし彼らから、もうちょっと歌をやりたいんですっていう相談が来たら、また何か考えようかな? くらいのスタンスで。無理くりに何か、彼らを使って振り回すような商売っ気のある事は、今はまったく考えていないですね。

ドワンゴ齋藤  そうですね。スタンスとしては、オリジナルですかね。ニコニコもそうですけど、オリジナル曲で、とてもいいものがあったら僕らとしても“着うた”で、もっといろいろな人に広めたいとか、コンピ・アルバムにしてみたいとか、そういう思いはあります。ただ、あまり商売な感じを出してしまうと、ニコニコの文化を潰してしまう事にもなりかねない。本人の意向でやってみたいとか、そういうのがあれば、そういう人たちへのチャンスというものは作れるかな?とは思っています。そんな感じですね。

ランティス斎藤  中には、プロ志向の強い方も何人かいて、数年後にはプロになって現れるかもしれない人もいると思うんですけど、今のところはそっとしておこうかな、という感じです。

――ニコニコ動画が与えた影響が、もうしばらくしたら、もっと表に出てくると思うんですよ。ひとつは“初音ミク”とか、ニコニコに上げて“総合ランキング1位”を取りたい一心で必死になってDTMで曲を作っている今の文化が、昔の“BMS”みたいになっている。今現在、“BMS”出身のクリエイターは実際に増えてきています。だから、今後ニコニコ動画から生まれたクリエイターも、もっと出てくると思うんです。で、もうひとつは〈歌ってみた〉の人たちですよね。彼らが2年後とか3年後に、そのうちどんどん表に出てくるだろうと。それを僕は、すごい楽しみにしていて。

ドワンゴ齋藤  そうですね。我々のようなニコニコ世代よりも前の人たちっていうのは、自分でバンドを組んで、デモテープを作って送ったりとか、そういった形でしか世の中にアピールする方法が無かった。ライブハウスに100人のお客さんを集めるのって、けっこう大変ですよね。場所を借りて、練習したりしなくちゃいけないとか。でも、それを自宅でやって、何万という単位の人に見てもらって、その中にファンが形成されるというのは、ニコニコだからできた事だと思います。今はDTMの技術も素人さんだからとバカにできない、ものすごく高いスキルを持っている方もいますし、歌い手さんも機材にとても詳しい。プロトゥールを使っている人も、多分かなりいると思います。それくらいまったく新しい制作環境と自分をアピールする場所が、できていると思いますね。

――アニソンをずっと追いかけている自分としては、ニコニコから出てきたならやっぱりアニソンを歌ってほしいな、と思うんです。もちろん、それは強要できないんですけど、若い世代がああやって、真剣にアニソンに向き合っているのが、すごく面白くて。10代、20代前半の子達が、すごい真面目に歌とアニソンについて考えているこの状況は、頼もしいですよね。そうだ、去年の『アニメロサマーライブ』で、陰陽師ってあったじゃないですか? あの枠って、今年はどうなるんでしょう?

ドワンゴ齋藤  どうなるんでしょうねえ(笑)。今、僕は関わってないからなぁ。今回のこれについては本当に、ドワンゴの齋藤とランティスの斎藤の趣味のプロジェクトですから。面白いものがあればああいう場所でもやってみたいですねー(笑)、みたいな、「(笑)」を付けておいてください(笑)。

一同 (笑)。

――本日はどうもありがとうございました!




2008年05月14日

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